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呼び止めてから自分の行動を恥じていた女性だったが、それを気にした様子は見せず、振り返れば先程と同じく穏やかな笑みを浮かべて見せて答えた。
「ライト。天見(アマミ) ライトといいます。それでは、これで」
自分の名前を名乗り、笑みを浮かべたまま一礼する青年──ライトは、再び背を向けて歩き出し、人混みの中へと消えた。今度は、誰も彼を呼び止める者はいなかった。
†×†
「……このタラシめ」
人混みに紛れ、誰もいない薄暗い路地裏へと移動したライトに、何者かが話しかける。しかし、その声の主の姿はなく、その声も頭に直接響くような声だった。
「うるせぇよ、ゼル。あの対応は当然のものだろが」
その突然聞こえてきた声に対し、ライトは女性の時とは違い、その前のイラついたような口調で返した。どうやら、それが彼の素のようだ。
「じゃあ、男だったらどんな対応を返していたんだ?」
ライトの言葉に、可笑しそうにその声の正体──ゼルが笑って言えば、そう質問をした。ゼルの言葉に、ライトはしばらく考えるような素振りを見せて、一つの結論を導き出したように頷いた。
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