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森を抜けた頃には日は上がり、辺り一面に色とりどりの花が咲き乱れた暖かい平地が現れた。
細い曲がりくねった道の先に小さな小屋が見えた。
二人はお互いに顔を見合わせると、意を決したようにその小屋へと向かった。
小さな丸っこいドアの前に立つと、中から若々しい女の人の声が聞こえた。
「お客さんとは珍しいですね。疲れたでしょう、温かい紅茶でも入れます。中にお入りなさい」
するとひとりでにドアが開き、木で出来た小さな椅子に座った女性が静かに本を読んでいた。
鼻に掛けた小さなメガネを取ると、優しい笑顔を見せた。
「あ、あの……どうかこの子を見てやってください。私たちどうすればよいのか」
花の王と呼ばれる女は、静かに立ち上がると小さな台所へと向かった。
「大体の事情はわかっています。恐れることはありません。ここで作ったハーブを使った紅茶ですよ、お上がりなさい」
そういうと静かにテーブルの上に、カップを置いた。
二人の夫婦は椅子に座り、花の王に出された紅茶に口をつけた。
「おいしい」
ハーブの爽やかな香りが口いっぱいに広がり、凍えた体が暖まった。
「それで……花の王様、この子はどうすればよいのでしょうか」
「クレアでいいですよ。花の王なんて誰がつけた名前なのか……。その子は悪魔の子ではありませんよ。風の精霊の力を授かった子なのです。妖精と言ったほうが分かりやすいかしら」
「妖精……。悪魔の子ではなかったとしても、村人達が信用してくれるかどうか……」
「その子はここに置いて行きなさい。この子が生きていくにはそれしかありません。きっとこの子はそういう運命に生まれてきたんでしょう」
クレアは静かに紅茶に口をつけると、優しい笑顔を見せた。
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