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――敵襲。
フォーラ・デロックの目は、その大きな声によって開かれた。
肌は浅黒く、しかし面立ちは凛々しい青年のそれだ。髪は雑に切り上げられ、ボサボサとした印象のある黒髪だ。
彼は鎧を着込むと兵舎から勢い良く飛び出し、眠気もとうに飛んだ頭で状況を理解する。
嘘ではない。敵は既にこのブトラ砦へと攻め上がっており、時たまこちらへ弓矢も飛んで来る。
気付けば、彼のいるリシュベル王国と、敵国グラウドラ帝国との国境沿いにある山脈に建てられた小さな狼煙台も機能していない。何らかの形で無力化されたのだろうか。いや、そもそも敵軍の発進すら情報が入って来ていない。
「フォーラ」
ふとした呼び声に身体を震わせる。振り向くと、そこには自分の上司に当たるウォビック隊長の姿があった。
黒い肌に筋骨隆々とした肉体。いかにも戦士の形をしている彼は、フォーラの尊敬する男なのだ。
「砦は捨てる。撤退だ」
それを聞いたフォーラは驚きを隠せず、すぐに反対の意を示した。まだ早過ぎる、と。
「……兵力差も勢いも向こうに分がある。なにより、これは命令だ」
命令。こればかりは、リシュベルの兵として従わざるを得ない物だ。
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