プロローグ

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 しかし、フォーラは耐え切れなかった。  彼は未だ防壁の上で応戦を続ける味方の元へ階段を駆け上がると、制止の声を振り切って壁下の敵軍を睨みつけた。  彼は強い。出身こそ王国だが、帝国の魔法学校で育つ。しかしそこで蓄えた知識実力は高く、入軍から四年、弱冠二十三にして砦一の使い手とまで呼ばれる程になっていた。  しかし、フォーラが人を率いる才を持ち合わせる事はなかった。そのため人の上に立つ事を嫌がり、尊敬するウォビックの下に着いたのだ。 「……」  フォーラは矢をものともせず、この死地に力強く立っている。まるで周りが見えないかのような振る舞いだ。 「下がれ、フォーラ!」  ウォビックが必死にフォーラへと叫び続ける。 「敵はサリーエル・デノアだ! ろくな準備もないこの戦は勝てない!」  フォーラの眉がぴくりと動いた。  戦争というものは実に厄介で、一人突出して強い者が隊にいても勝利出来ない。  誰がどう動くか、よりも、一つの纏まりがどれほど統一的な動きを取れるかが肝要であり。兵の中には“槍を突き出す”事しか出来ない者もいる。
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