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当のサリーエルには微塵の動揺も見せない。火球の方へ一瞥することも無く、気付いてもいないかのようだ。
「もう退け!」
ぐいと腕を引っ張られた。見ればウォビックも意を決したのかフォーラの後ろまで接近しており、口を結んでフォーラを睨みつけていた。
ウォビックは厳しさの中に優しさがあり、且つこういった場面での勇気がある男だ。そういう所にフォーラは尊敬したわけであり、彼は静かに引き下がった。
「逸る気持ちは分かる。が、落ち着け」
「……はい」
最後にちらとサリーエルの方を確認する。
やはり、魔法は防がれていたようだ。防御魔法陣の投影による物だろう。
「……む」
先程と変わった事といえば、サリーエルの頭だけが、こちらを向いているという事だ。
何か嫌な予感はした。二人は早く引き上げようと数歩下がる。
「――」
フォーラは息を呑んだ。サリーエルが不意に下馬したかと思うと、次の瞬間にはその姿が掻き消えたのだ。何の名残も無く、ただ瞬間的であった。
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