begining

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記憶がない。 死んだ時のとかそういう部分的な物じゃなくて、生きていた時の記憶が全てない。 と思ってから気がついた。 『生きていた時の記憶』 俺は完全にそう思っていた。 裏を返せば自分が死んだということを肯定していることになる。 否定してみても頭の片隅では分かっているのだろう。 自分が死んだ、ということを。 「私と同じね。お気の毒様」 その台詞には少しだが、気の毒そうな色が混じっていた。 「本当にここは死後の世界なのか?」 俺は天使に訪ねる。 「そうよ」 天使が即答する。 「じゃあ、俺は死んだんだな」 「やけに物わかりがよくなったわね」 天使が驚いたような声をあげる。 「何かよくわかんねぇけどさ、分かっちまったんだよな」 それに、と俺は続ける。 「こういう言葉を知ってるか?『順応性を高め、あるがままを受け止めなさい』」
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