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逃亡者
はぁっ、はぁっ……はぁっ……
逃げなきゃ。とにかく逃げなきゃ。
足が痛む。裸足で走りつづけたせいで、あちこち切れて、血がにじんでいる。うずくまって、足の裏をさする。
辺りを見ても、背の高い木と地面が見えないぐらい、うっそうとした雑草。
ここって、どこだろう……あそこから、どのぐらい離れられただろう。
たえずアナウンスとけたたましい音量のサイレンが聞こえる。
……が逃げています。住民の皆様は家から出ずに、しっかり戸締まりをしてください。また、姿を見かけた場合は、直ちにウイルス感染対策課までご連絡をお願いします。番号は……
しつこく流れるアナウンスを聞いている人はこの町にどれだけいるのだろう。どうせ皆死んじゃってるのに……
と思うと、急に強い光が木を照らし、真っ黒い木陰の下敷きになった。
思わず、空を見上げる。物凄い騒音と爆風……眩しくて目を細める。
ヘリだ!ヘリが私を探している。すぐに逃げなきゃいけない事を思い出し、前を向く。
私に残された時間はもうほとんどない。でも、だから、私は逃げなきゃ。
少しだけ息を吸い込んで、また走り出した。
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