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春とは言え、やはり早朝は冷える。なんとなく霞みがかった中で、大通りの方を見る。 緑の信号が冷たい色をして、淋しげに点灯していた。車なんて、めったに通ることはない。 この2年で東京の人口はぐっと減った。電車も空いているらしい。皆、水になってしまった…… こんな町で、いつ死ぬかわからないこんな世の中で、俺は右手に袋を持って、店の横の銀色をしたゴミ入れに突っ込もうと蓋を開けた。 !! ここにあるはずの無い物が、あった。足だ。白くて細い足首。 体育座りをして、俯いている。髪は……真っ白だ。寒かったのか、腕を抱えて、小さくなっていた。 し、死んでる……? い、いやこれは、例の白いカラス!? もたげていた頭をゆっくり上げてくる。長い睫毛まで白い。まるで雪が積もっているみたいに。 呼吸をするたびに白くなった息が見える。 ゴクリっ……息をのんだ。目の当たりにした白いカラスはこんなにも美しかったのか…… 見つめていると、かさついた唇から、高い声がした。 「……助けて……っ」 俯きかげんに目を落としたと思うとしっかり目をつぶり、力が抜けたようにガクッと頭が右に倒れた。 と、とにかく、隠さなくては!! 急いでゴミから手を離し、ゴミ入れから、この子を抱え上げ、うらのアパートの部屋まで走った。 外階段を上りきり、後ろを振り向いたが、大丈夫。誰もいなかった。 左腕に女の子を預けてジーパンのケツポケから鍵を取り出して、中にはいりながら、直ぐさまドアを閉めた。
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