脱走

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脱走

私たち家族は絶望した。私は胸まである自分の白い髪を見て、無性に全てをむしりたくなった。 こんな髪……こんな髪のせいでここに閉じ込められるなんて! もう二度とこの薄暗い部屋を出ることはない。あとは2週間後水になるのを待つだけ…… 高校では先生も友達も待っているのに、彼氏にもちゃんとお別れできていないのに…… 私はみんなが寝静まった頃、布団を頭まで被ってひっそりと泣いた。 何より親に泣いた姿をみせて、心配かけたくなかったし、それを見せて自分を責めるお母さんに会いたくなかった。たった2週間の命なら、笑って最後を迎えたいから―― でも、感情は抑えられない。どんなに泣き止もうとしても、もとの生活に戻りたくて、あと少しで自分がこの世からいなくなるなんて信じられなくて。 誰か助けてよ。 神様――いるなら、私たち家族をもとに戻してください。 毎晩毎晩お祈りしていた。 非感染者がいる場合は部屋に外から鍵をかけられて、外出できないように見張られる。 でも一度白いカラスになると話は別だった。 部屋も感染者用の棟に移される。家族は家族単位に住み、殺風景な様子は変わらないけれど、鍵は開けられ、電話ルームで外の人と会話することや、スポーツジムのようにダンベルやランニングマシーンがあったり、食事も食堂で他の感染者と共になる。 でも、世の中に報じられることはないけれど、実は日々暴動が起きる。 ただ死を待つだけの状況に絶望し、やけくそになった人たちばかりだから、当然といえば当然なんだけど。 今回も一人の感染者が食堂で白い防護服の職員に殴りかかった。 それに便乗して、次から次へと食事用のナイフやスポーツジムから持ち出したダンベルを携えた人々が職員を襲い始めた。 私たちも食堂でちょうど厚切りの豚肉を切りわけて食べている最中で、この暴動を遠くから眺めていた。 私は恐ろしくて、体が硬直し、もっているナイフを下ろせなかった。 遠くからでも、職員の服を切り裂き、頭めがけて振り下ろされるタンベルの衝撃に膝から崩れ落ちる様子、感染者の白い髪や肌や服に飛び散る血が見て取れた。
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