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隊務を終え、屯所で昼餉を済ませた咲郎は、近藤の使いで伏見奉行所へ書状を送り届けた。
「大坂西町奉行所より、新撰組に対する再三の苦情が寄せられているそうでな。その返状を認めた」
近藤は、眉を顰めてそう言っていた。
「大坂……。何故です?」
ここのところ、大坂では何も変事は起きていない。
「例の小野川部屋事件さ」
「……それは、もう済んだ事ではないのですか?」
咲郎の言葉に、近藤は尤もといった風に頷いた。
「まあ、執念深い輩もいるということさ。喧嘩沙汰で力士を殺傷した壬生狼が、大手を振るって不逞浪士取締りたぁ片腹痛いって事だろうが……」
「昨年の仇討ちの件は……」
「ああ、幸いその件には触れちゃいねぇな。あれは、伏見奉行所と会津様が秘密裏に収めてくれたからな」
「けど、済んだ事に荒波を立てるのは納得できません」
憤慨する咲郎に、近藤は苦笑した。
「歳みてぇな事言うなよ」
「え?」
「はは、まあいい。とりあえずこれを伏見の奉行所へ届けてくれ。総司には言うなよ。あいつは今何してる?」
「総司兄は、原田さんや藤堂さんと碁を囲ってます」
「よし、気付かれないように行ってくれ」
「解りました」
――という経緯だった。
取次役に書状を手渡し、咲郎は足早に奉行所の出口へと歩む。
「ご苦労様です」
奉行所の役人達は、浅葱色の羽織を纏った咲郎とすれ違う度に、深々とお辞儀をしてゆく。
大人達の大仰な態度に戸惑う咲郎であったが、近藤局長の使い番として礼を欠かぬよう振る舞った。
奉行所は、新撰組の屯所と違い厳格な趣しか感じなかった。
もっとも、それは新撰組外部の者からすれば、とんでもない誤った感覚なのであろう。
泣く子も黙る新撰組の屯所といえば、壬生狼の巣窟なのだ。
だが、咲郎から言わせれば、
――屯所には、土臭さと活気がある。
彼にとっては、人間味のある温かな我が家であった。
(そうだ、確かこの辺りにも団子屋があったっけ)
沖田に教わった団子屋は、一軒や二軒ではない。河原町、清水五条から西院、伏見とあらゆる団子屋の所在を叩き込まれた。
おそらく、京の団子屋を語らせたら彼の右に出る者はないであろう。
(よし、お福や総司兄に買っていってやろう)
咲郎は、小走りで団子屋の通りへ入ろうと角を曲がった。
その時、長身の男と正面から激突した。
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