其之八【七色の宴酔】

4/9
前へ
 /308ページ
次へ
 ――陽が暮れた。  屯所に戻った咲郎は、隊士の皆と井戸端で汗を拭き流し、その足でお福の元に直行した。 「お福、いるか」  咲郎が襖を開けると、彼女は間の中央に山積みに盛られた衣服をたたんでいた。 「おかえりなさい」  お福が微笑む。 「傷の具合はどうだ?」 「うん、もう殆ど平気よ」  咲郎は両腰の太刀を外し、お福の前に腰を落とした。  衣服を手に取り、一緒にたたむ。 「咲郎。それ、私の仕事よ」 「いいから」  よく、お雪がこうして洗濯した衣類をたたんでいたのを手伝ったものだ。 「お福、軍鶏って知ってるかい?」 「しゃも……?」 「ああ、鶏の料理さ」 「まあ」  お福が小さく驚く。 「今日、近藤局長が僕らの歓迎の宴を開いてくれるんだ」 「僕ら……?」  お福がきょとんとする。  咲郎は頷いた。 「そう、お福も一緒だって」 「そんな、私は……」 「折角のお誘いなんだから」 「うん……」  お福が嬉しそうに頷いた。  彼女も、今の生活に少しずつ幸せを滲み込ませているようだ。  それが、お福の選んだ道だった。そんな幸せそうな彼女の笑みを見て、やはり咲郎の口許は綻んだ。 「それじゃあ、この衣服をたたんだら奥様に言ってくるね」 「よし、僕も手伝うよ」  二人は談笑しながら、山と積まれた衣服を綺麗にたたんだ。  二人はまるで、過去を洗い流すかのように会話を楽しんでいた。闇の呪縛から解放された二人は、まだ齢十五の子供である。  帰るべき巣を得た幼鳥は、健気に一刻一時を楽しんだ。互いに、冷たく凍った心を溶け合うかのように。  お福が、畳一面に几帳面に並べられた衣類の上に、最後の一枚を乗せた。 「咲郎。私、奥様に言ってから支度するね。門の前で待ってていただけるかしら?」 「わかった」  咲郎は立ち上がり、二本の太刀を佩いて先に母屋を出た。 

最初のコメントを投稿しよう!

943人が本棚に入れています
本棚に追加
広告非表示!エブリスタEXはこちら>>