其の三

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「転校生?」 「違うだろ。だって、五年生にしちゃ、ちっちゃいぞ」 「先生の子か」 「だって先生、独身だぞ」 「えっ、もしかして隠し子?」 「相手がいないだろ」  そんな会話があちこちでされていた。 「本当におまえらは、うるさいな。いい加減に静かにしないと、教室から摘まみ出すぞ」  珍しく先生の顔が笑っていなかった。やっとみんな、静かになった。 「学君、ごめんな、こんなクラスで。運命だと思って諦めてくれ」 『小さい男の子』に小声でそう言ってから、黒板に大きく 『三宅 学』  と、書いた。 「みんなの新しい仲間だ。色々教えて上げてくれ。学君、挨拶出来るか?」  学は下を向いたまま、やっと聞き取れるくらいの声で 「よろしくお願いします」  そう言っただけだった。 「おい、幸太郎。おまえの隣が空いているだろ。良く面倒を見てやってくれ」  学は僕の隣の席に付く事になった。先生にお尻をポンと叩かれると、教壇から降りて、ヒョコヒョコと僕の隣にやって来た。 「僕、幸太郎。よろしくね」  学は、うんと答えただけだった。  その日は始業式だけで終わりだった。僕は学を連れて、トイレや保健室の場所を教えてあげた。最後に下駄箱の場所を教えて、そのまま一緒に下校した。帰り道は同じ方向だった。僕は、ずっと気になっていた事を尋ねた。 「足はどうしたの?怪我でもしたの?」  学は相変わらず、下を向いていた。 「うんうん。生まれた時から」  僕は、ハッと学の顔を見た。下を向いているので表情は判らなかったが、耳が真赤になっていた。僕は『しまった』と思った。聞いてはいけない事を聞いてしまったと思った。  それきり、その日は何も話さなかった。最後の分かれ道で、翌日の朝、そこで待ち合わせをして一緒に登校する約束だけをした。
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