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「転校生?」
「違うだろ。だって、五年生にしちゃ、ちっちゃいぞ」
「先生の子か」
「だって先生、独身だぞ」
「えっ、もしかして隠し子?」
「相手がいないだろ」
そんな会話があちこちでされていた。
「本当におまえらは、うるさいな。いい加減に静かにしないと、教室から摘まみ出すぞ」
珍しく先生の顔が笑っていなかった。やっとみんな、静かになった。
「学君、ごめんな、こんなクラスで。運命だと思って諦めてくれ」
『小さい男の子』に小声でそう言ってから、黒板に大きく
『三宅 学』
と、書いた。
「みんなの新しい仲間だ。色々教えて上げてくれ。学君、挨拶出来るか?」
学は下を向いたまま、やっと聞き取れるくらいの声で
「よろしくお願いします」
そう言っただけだった。
「おい、幸太郎。おまえの隣が空いているだろ。良く面倒を見てやってくれ」
学は僕の隣の席に付く事になった。先生にお尻をポンと叩かれると、教壇から降りて、ヒョコヒョコと僕の隣にやって来た。
「僕、幸太郎。よろしくね」
学は、うんと答えただけだった。
その日は始業式だけで終わりだった。僕は学を連れて、トイレや保健室の場所を教えてあげた。最後に下駄箱の場所を教えて、そのまま一緒に下校した。帰り道は同じ方向だった。僕は、ずっと気になっていた事を尋ねた。
「足はどうしたの?怪我でもしたの?」
学は相変わらず、下を向いていた。
「うんうん。生まれた時から」
僕は、ハッと学の顔を見た。下を向いているので表情は判らなかったが、耳が真赤になっていた。僕は『しまった』と思った。聞いてはいけない事を聞いてしまったと思った。
それきり、その日は何も話さなかった。最後の分かれ道で、翌日の朝、そこで待ち合わせをして一緒に登校する約束だけをした。
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