其の二

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 僕が小学校三年生の時の事。いつもの様に夕食の準備が整い始め、家族が居間に集まって食事が始まろうとしていた。母さんは台所から出来上がった料理をテーブルに運び、年子の妹は食器を運んだりして、母さんの手伝いをしていた。 「幸太郎、たまには手伝ってちょうだい」 「そうよ。お兄ちゃんも手伝いなさいよ」  僕は、うん、と返事をしただけで座ったまま動こうとはしなかった。  父さんは昔気質なところが多分にあり、特に食事の時には一段と煩かった。小学生の僕には、食事の時に足をくずす事は、まだ許されておらず、その日も正座をしようと座り直しかけた時に、突然思い付いた。 「ごめんなさい。ちょっと待って」 「幸太郎、早くしなさい」  父さんは既に、少し怒っているようだった。 「うん、すぐに済むから」  僕はそう言って机のところまで行き、その準備を始めた。  僕には祖父が一人しかいなかった。祖母は二人とも僕が生まれる前に他界してしまい、僕は写真でしか見た事がない。もう一人の祖父は、少しボケが始まると同時に、僕達と同居を始めたが、僕が幼稚園生の時に、家族に見守られてこの世を去った。唯一生き残った父方の祖父は、僕の家から歩いて五分とかからない近所に、一人で暮らしていた。もう長い事、一人暮らしをしており、何でも自分でこなしていたが、折角近くに住んでいた事もあって、よく食事を届けていた。夕食は殆ど毎日届けていたと思う。届ける係など決まっていなかったが、三人兄弟のうちの、手の空いている誰かが届けに行っていた。誰も嫌がる者はいなかった。中でも僕は、自ら進んで行く方だった。  こんな事を言ったら、兄や妹は気を悪くするかも知れないが、祖父は僕の事を一番可愛がってくれていたと思う。はっきりした理由がある訳では無いが、子供ながらに何となくそう思っていた。そう思っていた所為か、僕は祖父と一緒に居ると、とても居心地が良かった。
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