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近松陽菜。
彼女は学園において唯一帯刀を許されている。
傷つけるためではなく、戒めるために。
そのために刀を振るい、結果的に相手が負傷してしまうが仕方ない。
命があるだけまだマシである。
もし陽菜が真剣を用いていたならば、かなりの数の斬殺死体が学園から生産されていたに違いない。
そう、帯刀と言っても陽菜が腰に差しているのは木刀である。
いくら治外法権が布かれているトンデモ学園とは言え、さすがに真剣を持ち歩く非常識な生徒などいない。
しかし陽菜の斬撃は岩をも砕く。まともに食らえば無事では済まないだろう。
切れ味こそないが、破壊力は抜群である。
断っておくが、陽菜は決して乱暴な娘ではない。力を行使するのは学園の規律を乱す者への《粛正》のためだけだ。
若さゆえの過ちを犯す生徒も少なくはない。風紀委員はそうした者へ然るべき罰を与える執行人。
その頂点に立つのが風紀委員長、近松陽菜である。
彼女が歩けばモーゼの十戒のように、どんな人混みでも真っ二つに割れていく。
近松陽菜とは恐怖の対象なのだ。別段悪事を働いてもいないのに、彼女が視界に入るだけで大半の生徒は萎縮してしまう。
美しく艶のある腰まで伸びた黒髪に端正な顔立ちと、好感が持てる外見だが、中身を知られているので男たちからは全く言い寄られない。
それは同じ風紀委員の者でも同様である。陽菜から話しかけることはあっても、話しかけられることはめったにない。
いるとすれば、陽気な副委員長と腐れ縁の幼なじみぐらいなものである。
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