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雛の頬に手を伸ばし優しく頬を撫でれば軽く口付けをした。
そして最後の1人を仕留めに行こうと立ち上がり玄関に向かって歩いたときやった。
「…もう、止めて。」
懐かしい声。俺の大好きやった声。…忘れることなどない雛の声が俺を呼び止めた。急いで振り返ってみれば、半透明ながらもそこには立っているのは紛れもなく俺の愛していた雛やった。
「ひな、あともう少しでまた会えるんやで。」
「…よこ、もう止めて。こんなことして何になるん?」
雛に近寄ってみれば目元が微かに濡れている。
…ああ、そうやった。こいつはこんなことを望むようなやつやなかった。雛の頬に触れれば雛の思いがどんどん伝わってくる。今になって気付くなんて、どんだけアホなんやろ。
こんなことをしても、雛が帰ってくることなんてないのに。
「…ひな、ごめん。」
「ううん、いつまでも俺のこと愛してくれてありがとう。」
そう言うと雛は軽く俺の唇にキスをした。…最後の雛とのキス。思わず抱き締めようとすると、そこにはもう雛は居なかった。
俺は、誰かに操られているかのようにキッチンまでふらふらと歩けば、包丁を手に取り寝室へと向かう。
「ごめんな、ひな。」
雛は俺に罪を償ってほしいんやろうけど、俺は死を選ぶことにした。
雛が生き返らないと気付いた今、俺はもう生きる道なんて選ばない。雛が居ない世界で生きるなんて、死んでいることと同じだ。
「愛してる、雛。」
ひなの唇に優しく口付けすれば自分の喉元を目指して一気に刺す。もう、視界がぼやけてきた。あと、数分で死ぬやろう。でも、最後に雛の隣で死ねてよかった。雛に心の中で今までのお礼を言えば雛を抱き締めながら目を閉じた。
(悲しい男のラブストーリー)
(いつまでも、君だけを愛してる)
end.
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