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「なあ、早よ逢いたい。」
俺の恋人の大倉はソロの仕事で東京へ行ってしまった。普通に過ごしたら短いはずやのに、大倉がいないとこんなにも長く感じるなんて。なあ、もう我慢できへん。早よ逢いたいよ、忠義…。
(わたし鏡)
カレンダーに目を遣り日付を見る。大倉が帰ってくるまで後2日。離れている間は少しでもいいから毎日電話しような、と別れてからもう5日。
昨日までは同じ時間帯に電話があったのに、今日はまだ来ていない。不安で不安で仕方なくて、携帯を握り締めながらベランダに出る。
ぼんやりと月を見つめていれば、あることをふと思い出した。昔、中学生のときに流行っていたおまじない。『好きな人に逢えるおまじない』。
お月さまを眺めながら、携帯をきつく握りしめたまま胸元に手を遣り、強く強く念じる。…大倉に逢いたいよ、って。
「…なーんて、ほんまに逢えるはずないやん。」
自嘲気味に笑みを浮かべながら小さく呟き、ベランダから出ようとしたときやった。
―――プルル、プルル
「う、うわ。なんやねん。」
思わずビクッと肩を振るわせれば携帯を落としそうになり、慌てて携帯を握り締めると早く上がった心拍数を落ち着かせるように軽く深呼吸をする。
「…もしもし。」
「もしもし?ごめんな、電話するん遅くなって。」
「ううん、仕事お疲れさま。」
「ふふ、ありがとう。」
大倉の声を聞いただけで再び上がる心拍数。ほんまは逢いたいって伝えたい。でも、仕事の邪魔は絶対したくないから言えへん。自然に会話が途切れれば、再び逢いたいって気持ちが頭の中を占領する。
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