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「…章大?」
寝ぼけながら伸ばした手は、掴むものもなくただ宙を彷徨った。
最悪や。またあの日の夢を見てもうた。
(ふたりの花)
伸ばした手を下ろし身体を起こせばベッドから降り怠そうに歩きながらキッチンへ向う。
「うわ、何も入ってないやん。」
冷蔵庫のドアを開ければ若干苛つきながら適当に物を取り出す。冷蔵庫のドアを閉め、ソファーに腰掛ければ再びあの日のことを考えていた。…今でも夢に出てくるあの日のことを。
あの日は、久しぶりにデートをすると約束した日。
前日に撮影が押して遅くまで仕事していた俺は、次の日なかなか起きようとしなかった。
「もう!忠義早よ起きて!」
「…あとちょっとだけ寝かして。」
全く起きる素振りを見せない俺に、段々章大も機嫌を悪くし俺に背を向けてしまった。
「もう、お前なんか知らん!別れる!」
「はいはい、ごめんって。」
「久しぶりのデートの日やのに…」
今まで喧嘩したときに何回も聞いてきた言葉。また冗談で言うてるんやろうと思って適当に聞き流していた。
「もうお前なんか知らん!」
強めに言い放てば財布と携帯を持ち飛び出すように家を出て行ってしまった。
今までも何回か家を飛び出すことはあったから特に追い掛けることもせず、またすぐ戻ってくるやろうと軽い気持ちでソファーに腰掛けながら携帯を弄っていた。
「…あいつ、遅い。」
何分経っても何時間経っても帰ってくる気配はなく、章大のことが心配になり始めたとき、携帯が震えた。
「…もしもし。横山くん何?」
「お前、落ち着いて聞けよ。…安田が事故に遭った。」
「…は?横山君、冗談きついで。」
「冗談でこんなこと言う訳ないやろ。ええから、早く病院に来い。昔、みんなで遊んでた公園の近くの病院やから。」
電話を切ればすぐに家を飛び出し病院に向かっていた。そんなことあるはずがない、と思いながら…。
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