たとえ忘れようとも 緑青

3/4
前へ
/29ページ
次へ
風邪かな?と思って数日後、病院に行ってみることにした。ほんまにちょっと気になっただけ。 やのに、色々な軽い作業をさせられ日常生活のことも聞かれた。ちゃんといつも通りに話したのに。話せてたはずやのに…。 …軽い記憶障害やって。今はまだ軽いけど、その内一日前のことも一時間前のことも思い出せなくなるんやって。 そしたら、大倉のことも…?そんなん嫌や!何もかも記憶がなくなってもいい。やけど、大倉のことを忘れるなんて嫌や。大倉と愛し合ってることも忘れてしまうなんて、そんなん耐えられへん。 そんなことを考えながら家に帰ると珍しく大倉が先に家に帰っていた。笑顔を作って大倉の元へ行く。 「大倉が早いなんて珍しいな。」 「ちょうど撮影が早く終わってん。…病院どうやった?」 「んー、やっぱりただの風邪やって。何日か薬を飲めば治るって。」 そっかよかった、と安堵の笑みを浮かべる大倉につられにっこりと微笑む。ごめんな、大倉嘘ついて。 でもきっと大倉に言ったら悩ませちゃうから。仕事に影響が出るくらい悩ませちゃうから。 それから何ヶ月も、隠しながら隠しながら仕事をしてきたけど正直もう限界。ついには何回もNGを出してまう始末。 スタッフと事務所と大倉以外のメンバーに詳しいことを話して、俺は仕事をやめることにした。 大倉にはまだ言ってへん。大倉には二人きりできちんと話したいから。 インターホンが鳴り確認しに行くと怒っている様子がよく分かる。深呼吸をすればゆっくりと玄関のドアを開けに行く。 「ただいま。」 「おかえり。」 ただいま、以外何も口に出さない大倉。座っている大倉のためにビールを出そうと冷蔵庫を開ける。…あれ?大倉が好きなビールってどれやったっけ? 「なあ、なんで急に辞めたん?なんで俺に何も相談してくれへんかったん?」 「…ごめん、大倉に迷惑掛けたくなかってん。」 「迷惑なんて思う訳ないやん。ちゃんと聞かせて?」 小さく頷くと相手の隣に腰掛ける。俺は自分が記憶障害になったことを話した。そして、もうかなりのとこまできていることも。 「…そっか。」 「うん…。」 「なあ、交換日記しようか。」 …交換日記?いきなりどうしたんやろ?でも、大倉にも何かしら考えてることがあるはず。俺はにっこりと微笑みながら頷いた。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

333人が本棚に入れています
本棚に追加