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――十三年前、魔界。
都心部とは大きく離れた場所に位置する、ファイスト高原。草は不気味に赤黒く染まり、所々に転がる骸骨や錆びた刃物が恐ろしさを引き立てている。
高原に立ち尽くす、一人の男がいた。黒の衣類で身を包んだその男は、魔界という舞台に相応しい悪魔そのもの。
そんな男に近付く、物好きな人間……いや、かつて人間だった魂が二つ、現れた。
男は何も言わない。不気味に揺らめく人魂には見慣れているのか、それとも怖くて声が出せないのか。いいや、悪魔なのだから後者は先ず、有り得ないだろう。
「あのぅ」
先に声をかけたのは、魂の方だった。悪魔は魂を喰らうというのに、自ら近付いて声をかけるとは……物好きな魂である。
それまで背中を向けていた男、即ち悪魔はゆっくりと振り返り、赤い瞳を光らせた。魂は震え上がり、身を寄せあいながら、
「頼みがあるんですが」
と告げる。物好きにも程がある、と悪魔は心の中で笑った。
その魂、見たところ夫婦のようである。既に人魂と化しているのだからどちらが男か女か、なんてことは分からないのだが。
――このオレを悪魔だと知っての頼みごとか。面白い。悪魔は口元に笑みを浮かべ、ようやく口を開いた。
「言ってみろ」
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