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季節は春。
桜が舞うこの季節にみんなどんな想いで新しい生活を始めているのだろう。
そういう自分もその一人なのだが…。
自分、永井一途(かずと)18歳。今年から大学生活を始める一年生だ。
初受講となる今日という一日は、きっと自分にとって忘れられない物になるに違いない。
新生活の舞台となるキャンパスは、駅の北口から右手に折れ、歩いて10分程の少し小高い丘の上に建っている。キャンパスに行く途中、桜並木がアーチをかけ、学生達を迎えてくれる。
その桜並木に少し見とれながら歩いている自分に後ろから駆足で近付く足音が聞こえてきた。自分が振り返るより先に背中に痛みが走った。
「おはよう!!」
その言葉の勢いのままに、背中に平手を叩き込んだのは、高校時代からの友人、平井圭太だった。
「痛っ、もう少し優しい挨拶をしろよ?」
そう言う自分を尻目に
「いよいよだな。」
と期待と不安を織交ぜた表情でキャンパスの門を見据えている。
自分も相槌を打ち
「あぁ…そうだな。」
自分も同じ心境だった。あのキャンパスで僕は何を刻み、何を残すのだろう…。
歩を進め、門を潜ろうとする時に、門の向こう側で数人の女性が立話をしているのが見えた。その中に良く知った2人の顔があった。
僕が気付くとほぼ同時に、2人のうちの1人が元気な声を張り上げ手を振り始めた。
「おはよう!馬鹿一途(いっと)」
もう一人の方もこちらに気付き、微笑み
「おはよう」
僕も微笑みながら
「おはよう」
と少し照れくさそうに返した。
そして、その恥ずかしさをかき消そうとして、元気な声の主に
「お前なぁ~…キャンパス生活の第一声が『馬鹿』とはなんだよ?」
少し怪訝そうな声でそう言うと
「いいじゃな~い。」
と呆気らかんとした返事が返ってきた。
いつもこんな感じだ。
彼女の名前は、藤 咲。
高校1年から3年まで同じクラスで過ごした間柄だ。
彼女の明るさは、クラスを越え、学校中にも知れ渡り、彼女は自然と学校中の人気者になっていった。
そしてもう1人…。
僕の想い人、久遠春霞(はるか)だ。
彼女は高校3年の2学期の始めに転校して来た。
初めて見た時、僕は彼女に恋をした。
初恋だった…。
もっとも、そう自覚するのは少し後なのだが…。
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