植木鉢

4/5
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「はい。僕は寛太郎といいます」 「そうか、寛太郎かい。良い名前だね」  おじいさんは、ニコニコしながら話しを続けます。 「寛太郎、この土はとても不思議な力を持っているんじゃ。 この土に好きな食べ物を一つまみ埋めると、それが種となり、芽が出て、やがて花が咲き、実がなる。 そしてその実を食べてみると・・・」  寛太郎は、唾をゴクリと飲み込みました。 「埋めた食べ物の味がするのじゃ」  寛太郎は 『ゲッ』とも 『ぐわっ』とも聞こえる様な奇妙な声を出して、後に仰け反り、倒れそうになりました。  そして、 「そ、そ、そんな大事な物はもらえません」  と言いました。  おじいさんは、 「いいんじゃよ。受け取っておくれ。 そのおでこの汗の様子じゃ、一生懸命走って追っかけてくれたんじゃろ。 わしは嬉しい。 だから受け取っておくれ」  寛太郎は、手の甲で、おでこの汗を拭ってみました。 びっしょりです。  でも、この汗は走ってかいた汗ではなくて、ドキドキして出てきた汗です。  おじいさんは、植木鉢をそっと袋に戻し終えると、寛太郎に差し出しました。  そして、少し真面目な顔をして、言いました。 「寛太郎、約束して欲しい事が三つあるんじゃ。  良いかな?  お天気の良い日には、お日様の陽に当ててあげる事。  毎日必ずお水をあげる事。  それと、実を食べていいのは一日一個だけ。  この三つじゃ」  寛太郎は、植木鉢を受け取りながら、 「はい。わかりました。 おじいさん、ありがとうございます」  と答えました。  おじいさんは、また寛太郎の頭を撫でながら、 「じゃあね。また、どこかで会おうね」  そう言って、大通りの方へ、歩いて行ってしまいました。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!