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「あれえ、変だなあ。でも、僕とぶつかって落としたんだ。届けてあげなくちゃ」
寛太郎は得意のかけっこをする様に、急いで坂を駆け上がりました。
坂道を登り切った交差点で、右を見てもいません。
左を見ると、次の角を曲がって行くおじいさんの姿が、見えました。
「よしっ」
寛太郎は、再びダッシュ。
『おじいさんはここを曲がればいる筈だ』
と思いながら、角を曲がってみましたが、おじいさんは、またいません。
「あれえ、おかしいぞ。一体どこへ行っちゃったんだ?」
その道は、50メートル程先で大通りにつながっていて、その間、脇道はありません。
「困ったなあ。どうしよう」
と、つぶやく寛太郎の肩を誰かがトントン。
「わあっ」
寛太郎はびっくり。
「おやっ?さっきの少年じゃないか。どうしたんじゃ?」
おじいさんでした。
「これは、おじいさんのお財布じゃないですか?」
寛太郎は少し息を切らせながら、お財布を差し出しました。
「おお、わしのじゃ。わざわざ届けてくれたのかい?ありがとう」
おじいさんは、ニコニコしながら答えました。そして、
「届けてくれたお礼に、これをあげよう」
と言って、手に持っていたスーパーのビニール袋を開き始めました。
袋の中から出て来たのは、直径10センチ程の植木鉢で、中には少し赤身を帯びた土が入っています。
「まだ、君の名前を聞いていなかったね。わしに教えてくれるかい?」
と、おじいさんは尋ねました。
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