植木鉢

3/5
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「あれえ、変だなあ。でも、僕とぶつかって落としたんだ。届けてあげなくちゃ」  寛太郎は得意のかけっこをする様に、急いで坂を駆け上がりました。  坂道を登り切った交差点で、右を見てもいません。 左を見ると、次の角を曲がって行くおじいさんの姿が、見えました。 「よしっ」  寛太郎は、再びダッシュ。 『おじいさんはここを曲がればいる筈だ』  と思いながら、角を曲がってみましたが、おじいさんは、またいません。 「あれえ、おかしいぞ。一体どこへ行っちゃったんだ?」  その道は、50メートル程先で大通りにつながっていて、その間、脇道はありません。 「困ったなあ。どうしよう」  と、つぶやく寛太郎の肩を誰かがトントン。 「わあっ」  寛太郎はびっくり。 「おやっ?さっきの少年じゃないか。どうしたんじゃ?」  おじいさんでした。 「これは、おじいさんのお財布じゃないですか?」  寛太郎は少し息を切らせながら、お財布を差し出しました。 「おお、わしのじゃ。わざわざ届けてくれたのかい?ありがとう」  おじいさんは、ニコニコしながら答えました。そして、 「届けてくれたお礼に、これをあげよう」  と言って、手に持っていたスーパーのビニール袋を開き始めました。 袋の中から出て来たのは、直径10センチ程の植木鉢で、中には少し赤身を帯びた土が入っています。 「まだ、君の名前を聞いていなかったね。わしに教えてくれるかい?」  と、おじいさんは尋ねました。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!