20人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「これが、不思議な力を持った土なのか?」
思っていたより、サラサラしています。サインペンで小さな穴を開けてから、プリンをスプーンで掬って、そっと入れてみました。すると驚いた事に、穴の周りの土がサーっと寄って来て、穴を埋めてしまいました。
「すっすごい。おじいさんの話しは本当なんだ。これは本当に魔法の土なんだ。早速、お水をあげなくちゃ」
と、独り言を言って、また台所に戻ろうとした時です。ママが部屋に入って来ました。
「わあっ」
寛太郎は、驚いて飛び上がりました。
「何よ、そんなに驚いて。さては何か隠し事をしているわね」
ママはそう言って、部屋を見渡しました。
「あらっ、何、この可愛い植木鉢は?」
寛太郎は『しまった。やっぱり見つかっちゃった』と思い、
「そ、それはね・・・」
と、言葉に詰まってしまいました。ママは寛太郎の顔を覗き込む様に屈んで、
「寛ちゃん、本当の事を言いなさい」
と、少し怒った口調で聞きました。寛太郎は観念して、話し始めました。おじいさんとぶつかってしまった事、お財布を拾って届けた事、お礼に植木鉢をもらった事。でも、魔法の土の事は、言えませんでした。ママに言ってしまったら、
「魔法なんてあるわけないでしょ。そんな土は、公園の花壇にでも、撒いて来なさい」
と、言われてしまうと、思ったからです。
寛太郎の話しを聞くと、ママは、溜息をついてから、
「お財布を届けてあげたのは、良い事だわ。でも、知らない人には、付いて行かない様に、いつも言っているでしょ。そういう時は、一度お家に帰って、ママに言うのよ。そうしたら、一緒に落とし主を探してあげるわ。わかった?」
「うん。わかった。ごめんなさい」
と、寛太郎は言ってから、心の中で、
『魔法の土の事を隠してて、ごめんなさい』
と、もう一回謝りました。ママは『わかったわ』と答える代わりに、ニコっと笑って、
「寛ちゃん、何の種を植えようか?」
と、聞きました。寛太郎は、
「もう、植えたよ。僕、お水を取ってくる」
と言って、台所に向かいました。
最初のコメントを投稿しよう!