30人が本棚に入れています
本棚に追加
俺は記憶を過去に遡らせる。
ビギンズナイトの翌日、あいつが「フィリップ」と名乗ったあの朝に…。
「目が覚めたかい?」
声がする。どこか大人びた、少年の声が。
目を開くと、そこにはあのビルで捕まっていた少年がいた。
「よかった。二度と目覚めないんじゃないかと思ったよ、あんなことがあったからね」
「お前は…」
誰だ、と言いかけて、自分がその少年の膝枕で寝ていることに気付く。
「っだぁ!」
慌てて飛び起きる。俺に男とイチャつく趣味はない。
「どうしたんだい?」
「いや…なんでもない。それより、」
俺はそいつに名前を聞きかけて、まだ自分が名乗ってないことに気付く。
相手に名前を聞く時はまず自分から名乗れ、おやっさんに教えられた言葉だ。
「俺は左翔太郎。あんた、名前は?」
「僕?僕の名前は…」
少年の顔が一瞬曇る。だがすぐ顔を上げ、
「"フィリップ"とでも呼んでくれたまえ」
と答えた。
「フィリップ?どう見ても日本人にしか見えねぇが」
「ニックネームみたいなものだよ」
そう呟くと少年は、巨大な車に手をかけた。
「…って、おいおい。なんだこりゃ…」
俺は思わず息をのんだ。
後部には巨大なホイール。
2本のアンテナに、赤い目の様なフロントガラス。
車、と呼ぶにはあまりに奇怪な乗り物が、そこにはあった。
「おい、なんだこりゃ?というか、ここどこだ?」
恥ずかしながら、俺は今の今まで自分の現在地を確認することが頭になかった。
「そうか、知らないんだね、君は」
少年は巨大な車に置いていた手をどかし、俺の方を見て説明を始めた。
最初のコメントを投稿しよう!