435人が本棚に入れています
本棚に追加
海野さんは優しく笑い、
「お命があるだけよろしいではありませんか」
と言った。
「修行で死ぬ武士がいるかぁぁあ!!!」
「あぁ、そーいやウチの殿は仮にも武士だったな!」
「小六……」
小六さん……本名根津甚八(ねづじんぱち)さんが広間の前を通りかかった。
「ここに住んでっと、武士とか忘れちまーわ!はっはっはっ!!」
でも武士は殿だけで、僕らは殿に仕えるただの勇士なんだ。
「くっそ……とりあえず踵落としの刑な!!」
殿は花札中の佐助さんと才蔵さんの頭に踵落としを決めた。
「おーい幸村ー」
「あ゙!!?この声は……鎌之助か?」
殿が庭を見ると、両手にたくさんの野菜を抱えた由利鎌之助(ゆりかまのすけ)さんが笑っていた。
「ちょっと村まで下りて、豚1匹仕止めてきてくれよ」
「なんで俺なんだよ!!?」
殿は仮にもこの屋敷の主で、武士で、殿だ。
鎌之助さんはぶぅ、と頬を膨らます。
「だって筧さんいねーんだもん」
筧十蔵(かけいじゅうぞう)さんは火縄銃の名手なんだけど、無口でクールで、普段はイマイチ何を考えているのか分からない。
前に僕は1日かけて、涼と一緒に十蔵さんのあとをつけたことがあったけど、山の中をフラフラして、たまに木登りをして、たまに川の水を飲んで、たまに座り込んで愛用の火縄銃・さと子さんの手入れをして、そして夕方に屋敷に帰ってきただけだった。
最初のコメントを投稿しよう!