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僕はそんな人間を絶対に見捨てたりはしない。それは志なんてものじゃなくて、そう、“それだけが僕”だからだ。
とまあ、そんな感じで考え事をしていると「あのー、聞こえてないんですか?」幸灯ちゃんが話し掛けてきていた。過去系だ。完全に無視していたので、幸灯ちゃんは怒りというよりはむしろ怪訝そうな表情をしている。
「ん――ああ、ごめんごめん。何かな?」
「あ、やっと反応してくれましたか。気を付けてくださいね、危うく衝動的にボディーブローをたたき込むところでした。敢えてどこにとは言いませんが」
「いや、ボディーじゃないのかな……。ちょっと考え事してたんだよ」
特に取り繕う必要性がないので、正直に告白する。
幸灯ちゃんはそんな僕の答えに納得したのか、単に予想の範囲だったのか「ふうん、まあいいですけど」特に食いついてはこなかった。
「――で、ところで、何か気付きませんか? えーっと……」
何かを求めるように言葉を切る幸灯ちゃん。さすがにそれが指しているものは分かった。
「ああ名前? 僕は水留涙(みずどめ なみだ)。別に常識的ならなんて呼んでもいいよ」
「あ、じゃあ『なみちん』って呼びますね」
「え、なんて?」
「だからなみちんですよ。涙だからなみちん。ふむ、気に入りませんでしたか?」
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