一章

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 僕はそんな人間を絶対に見捨てたりはしない。それは志なんてものじゃなくて、そう、“それだけが僕”だからだ。  とまあ、そんな感じで考え事をしていると「あのー、聞こえてないんですか?」幸灯ちゃんが話し掛けてきていた。過去系だ。完全に無視していたので、幸灯ちゃんは怒りというよりはむしろ怪訝そうな表情をしている。 「ん――ああ、ごめんごめん。何かな?」 「あ、やっと反応してくれましたか。気を付けてくださいね、危うく衝動的にボディーブローをたたき込むところでした。敢えてどこにとは言いませんが」 「いや、ボディーじゃないのかな……。ちょっと考え事してたんだよ」  特に取り繕う必要性がないので、正直に告白する。  幸灯ちゃんはそんな僕の答えに納得したのか、単に予想の範囲だったのか「ふうん、まあいいですけど」特に食いついてはこなかった。 「――で、ところで、何か気付きませんか? えーっと……」  何かを求めるように言葉を切る幸灯ちゃん。さすがにそれが指しているものは分かった。 「ああ名前? 僕は水留涙(みずどめ なみだ)。別に常識的ならなんて呼んでもいいよ」 「あ、じゃあ『なみちん』って呼びますね」 「え、なんて?」 「だからなみちんですよ。涙だからなみちん。ふむ、気に入りませんでしたか?」
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