清掻き

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下らないとは思いつつも、結局自分がその下らない連中のお陰で生きているのも事実。 運良く身請けされたとて、囲い者にでもされて飼い殺しの内に一生を終えるのは明白だ。 さもなくば、愛しい間夫でも見つけて共に死んでしまおうか。 そこでふと、間夫に捨てられた母が思い浮かんだ 今はいない、顔すら知らぬ母は、どんな思いで裏切った男との子を、自分を生んだのか。 最早知る術はないけれど、きっと望まれていなかったことは確かだ。 しかし、不思議と悲しくはない。多分、顔も分からない親にどう思われようと、悲しみようがないのだろう。 自分のそういう淡白な所を、梅葉は鈍感だと常々言うが、鈍感でもなければこの世は行きてはいけまい。 ただでさえ、不条理なこの世。 嗚呼、どうにも今夜は感傷的でいけない。 こめかみを押さえながらうつ向く。手早く髪を整え終えた髪結いがそそくさと座敷を後にした。 もういい加減、夜見世も始まろうという時間だ。急ぐのも無理はないか。 思うこととは裏腹に、足取りは鈍く、動きは緩やかだ。 何故、今日という日はこんなにも憂鬱なのか。 ゆるりと瞼を閉じたその先に、あの男が見えた気がした。
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