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「では始めましょう。」
男は自分の皺のないスーツの内ポケットからコインを取り出し、器用に親指で弾く。
鉛直上向きに運動を開始したコインは、やがて頂点に達し自由落下を始め、女は目でそのコインを追った。
「表ですか?裏ですか?」
落下したコインを手の甲と、もう一方の手の平で挟み、男は穏やかな口調で女に問うた。
「表!」
女は悩むことなく宣言した。
「では開けてみましょう。」
被さっていた一方の手を静かにどけると、10という文字が書かれたコインが顔を見せた。
「残念...裏でしたね。」
「えー!!」
女は明らかに落胆していたが、男は構わずこう言った。
「では、約束通りあなたには...死んで頂きましょうか。」
「え...」
男が呟いた刹那、女は重力に従って崩れ落ちた。
「ふふ...狂ったのではなく、終わってしまいましたね...」
男は倒れた女を一瞥し、再び呟いた。
「私に関わると、ろくなことはありませんよ...」
返事のない肉塊を余所に、男は歩き去っていった。
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