組織

2/30
前へ
/62ページ
次へ
「些か疲れましたね...」 男は溜め息をつきつつ独り言を呟いた。 「いつものバーにでも行きましょうかね..」 誰もいないにも関わらず敬語で話し続ける様子からして、この口調が板についてしまっていることが伺える。 依然続く風俗街、何やら男の来た道からは騒ぎが聞こえるが、男は気にするそぶりを見せずに歩き続ける。 「それにしても寒いですね...」 一人で言葉を紡ぐその口からは、白い吐息が漏れている。 「この寒い中、よくもまぁあんな格好ができますね...女は凜としていて強か...それでいてなぜああも脆いのでしょうかね...」 一人物思いにふける男。 「おっと...もう着いてしまいましたか...寒いのは嫌いではないんですがね...」 男の眼前には、焦げ茶色をした重厚なドア、いかにもアンティークな雰囲気を醸すバーがあった。 「お邪魔しますかね...」 カランカランとドアにつけられたベルが鳴り、心落ち着くジャズが店内に響いていることを確認すると、慣れた様子でカウンターの最奥の席に男は着く。 「ギムレットをお願いします。」 「かしこまりました。」 バーのオーナーが準備にとりかかった。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

112人が本棚に入れています
本棚に追加