組織

3/30
前へ
/62ページ
次へ
「ナイトさん、今日はお一人ですか?」 ライムをカットしながら、オーナーは男に語りかけた。 「今はプライベートですよ、役職で呼ぶのはご遠慮願います。」 「はは、失礼しました、クリスさん。」 オーナーは男をクリスと呼んだ。 男の名はクリスと言うらしく、このバーの馴染みであるようだ。 「お待たせしました。」 グラスの縁に綺麗にカットされたライムが挟まれ、ジンの強烈な香りが漂う。 クリスは一口飲むと息をつき、口を開いた。 「いつ頂いても素晴らしい...ここのバーは最高です。」 「ありがとうございます。」 有り触れたやり取りを繰り返すと、ドアに取り付けられたベルが揺れ、独特の音を奏でた。 「オーナー!クリスはここにいるかー!?」 クリスとは対照的な格好、ダメージパンツに白いTシャツを着た、筋肉隆々の男が入店と同時にそう言った。 「そんなに大声で言わずとも聞こえますよ、ほら、あそこの奥の席です。」 「はいはい。ったく、オーナーもクリスも堅苦しいったらありゃしねーな。なんとかなんねーのか?その口調はよ。」 オーナーは苦笑いを浮かべるだけで何も返さない。 「人がせっかく酒を楽しんでいるというのに...どうしてあなたはそんなにデリカシーがないのでしょうね...」 クリスは溜め息をつきながらそう言う。 呆れていることは火を見るより明らかである。 「まぁいいじゃねーか、それよりもな...」 何やら重たい話があることを察したクリスは、途端に目つきが鋭くなる。 「仕事だ。」 「はぁ....」 深い深い溜め息をつくと共に、クリスは男の話に耳を傾けることにした。
/62ページ

最初のコメントを投稿しよう!

112人が本棚に入れています
本棚に追加