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「ナイトさん、今日はお一人ですか?」
ライムをカットしながら、オーナーは男に語りかけた。
「今はプライベートですよ、役職で呼ぶのはご遠慮願います。」
「はは、失礼しました、クリスさん。」
オーナーは男をクリスと呼んだ。
男の名はクリスと言うらしく、このバーの馴染みであるようだ。
「お待たせしました。」
グラスの縁に綺麗にカットされたライムが挟まれ、ジンの強烈な香りが漂う。
クリスは一口飲むと息をつき、口を開いた。
「いつ頂いても素晴らしい...ここのバーは最高です。」
「ありがとうございます。」
有り触れたやり取りを繰り返すと、ドアに取り付けられたベルが揺れ、独特の音を奏でた。
「オーナー!クリスはここにいるかー!?」
クリスとは対照的な格好、ダメージパンツに白いTシャツを着た、筋肉隆々の男が入店と同時にそう言った。
「そんなに大声で言わずとも聞こえますよ、ほら、あそこの奥の席です。」
「はいはい。ったく、オーナーもクリスも堅苦しいったらありゃしねーな。なんとかなんねーのか?その口調はよ。」
オーナーは苦笑いを浮かべるだけで何も返さない。
「人がせっかく酒を楽しんでいるというのに...どうしてあなたはそんなにデリカシーがないのでしょうね...」
クリスは溜め息をつきながらそう言う。
呆れていることは火を見るより明らかである。
「まぁいいじゃねーか、それよりもな...」
何やら重たい話があることを察したクリスは、途端に目つきが鋭くなる。
「仕事だ。」
「はぁ....」
深い深い溜め息をつくと共に、クリスは男の話に耳を傾けることにした。
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