夜分遅くに

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人間が今生きているということは、素晴らしい偶然なのです。 そう、偶然。 死は突然訪れるのではなく、生きていることのほうが奇跡なのです。 そう思えば楽になります。 娘の死も受け入れられるのです。 だから、いつ死ぬかも分からないのに、あんなに笑っている。幸せそうなあなた方が私は信じられない。 見ててイライラします。 昔の自分を見ているようで。 その無知さにイライラします。 「犯人は未だに捕まっていません……」 テレビが告げました。 お母様の身体がビクンと動きます。 「戸締まりしないと……」 彼女はポツリと呟いて、雨戸を閉めにやって来ます。 素晴らしい。これが母の強さですね。 息子を守るため悲しみに蓋をするのです。 ただただ立ち尽くしていた私とは大違いです。 私は右手の包丁を見つめて考えます。 まずはここから。死は近くにあること、生きていることの素晴らしさ。 それを教えるために私は殺人者となりましょう。 ガラガラ。 窓が開きました。  
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