106人が本棚に入れています
本棚に追加
/314ページ
人間が今生きているということは、素晴らしい偶然なのです。
そう、偶然。
死は突然訪れるのではなく、生きていることのほうが奇跡なのです。
そう思えば楽になります。
娘の死も受け入れられるのです。
だから、いつ死ぬかも分からないのに、あんなに笑っている。幸せそうなあなた方が私は信じられない。
見ててイライラします。
昔の自分を見ているようで。
その無知さにイライラします。
「犯人は未だに捕まっていません……」
テレビが告げました。
お母様の身体がビクンと動きます。
「戸締まりしないと……」
彼女はポツリと呟いて、雨戸を閉めにやって来ます。
素晴らしい。これが母の強さですね。
息子を守るため悲しみに蓋をするのです。
ただただ立ち尽くしていた私とは大違いです。
私は右手の包丁を見つめて考えます。
まずはここから。死は近くにあること、生きていることの素晴らしさ。
それを教えるために私は殺人者となりましょう。
ガラガラ。
窓が開きました。
最初のコメントを投稿しよう!