静かな夜に私は願う

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  「でも、できたんだ。やりたいこと」  草の向こうで彼が言う。 「どんなこと?」 「なーいしょ」  大人しく、さっきまであった無邪気さが跡形もなく消え去った口調。私にはこれが何を意味するのかがまだ分からない。 「お姉ちゃんの、まだ聞いてないよ?」  彼は口調そのままで問い返す。 「私? 私はねえ――」  少し私は躊躇(ためら)った。  この願いは、まだ誰にも話したことのない、現実逃避のためだけの願い。弱々しい私の、君主としての私には似つかわしくない願い。  躊躇ったけれど、私は願う。 「――私は、風になりたい」  どうしても、私自身の願いを聞いてもらいたかった。どうしても、弱い私を見てほしかった。  強く願うわけではないけれど、本当の私を知ってほしかった。ただそれだけ。造った顔と、造った立ち振る舞い。それを信じている皆を裏切りつづける私が、私は嫌いだった。  でも、だから、私は裏切りつづけた。強い私のままで皆の期待と信頼に応えてきた。  声に応えられなくなってきた私は、逃げるようにここへきた。 「へえ。じゃ、次は僕の番だね」  彼が言う。  ぽつりと言う。 「――僕は、     君の願いを叶えたい」
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