7人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも、できたんだ。やりたいこと」
草の向こうで彼が言う。
「どんなこと?」
「なーいしょ」
大人しく、さっきまであった無邪気さが跡形もなく消え去った口調。私にはこれが何を意味するのかがまだ分からない。
「お姉ちゃんの、まだ聞いてないよ?」
彼は口調そのままで問い返す。
「私? 私はねえ――」
少し私は躊躇(ためら)った。
この願いは、まだ誰にも話したことのない、現実逃避のためだけの願い。弱々しい私の、君主としての私には似つかわしくない願い。
躊躇ったけれど、私は願う。
「――私は、風になりたい」
どうしても、私自身の願いを聞いてもらいたかった。どうしても、弱い私を見てほしかった。
強く願うわけではないけれど、本当の私を知ってほしかった。ただそれだけ。造った顔と、造った立ち振る舞い。それを信じている皆を裏切りつづける私が、私は嫌いだった。
でも、だから、私は裏切りつづけた。強い私のままで皆の期待と信頼に応えてきた。
声に応えられなくなってきた私は、逃げるようにここへきた。
「へえ。じゃ、次は僕の番だね」
彼が言う。
ぽつりと言う。
「――僕は、
君の願いを叶えたい」
最初のコメントを投稿しよう!