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私は見えない彼を横目で見た。突然過ぎて声も出ない。
「君が風になりたいなら、僕がしてあげる」
彼は当然のように断言して、私の答えを待っている。
風になる。どうやっても叶うはずがない、叶えることの出来ない願い。それが出来るという彼は、
「貴方は、一体何者?」
私の問いに彼はまた同じ答えを返した。
「さっきから言ってるでしょ。僕は〝全て〟だって。地面も空も風も人も、全部僕」
「森羅万象って言いたいの?」
「存在する全てのモノ、か。そうだね、その通り」
私はもう一度目の前の星空を眺めた。有り得ないと思いつつも疑う気にはならなかった。私も彼の一部だというのならば、この感覚も説明できる。
本当に、不思議な話だ。
「そんなモノが、どうして私なんかの願いを叶えたいと思ったの?」
私の疑問はそこ。私が彼の一部なら、他の人々だって皆そう。私より強く願う者もいるだろうに、どうして私なんだ。
彼は初めて、答えに詰まった。
「どうして、だろう。もしかしたら僕は君に恋をしたのかもしれない」
私は思わず笑ってしまった。
「恋をした、ね。とんだ神様の気まぐれだわ」
意味合いの中には半分呆れも入っている。
「戦の中で飢えに苦しむ者がいる。他にも私より強く願う者もいたでしょう。私なんかよりも先にその者達の願いを叶えてあげてください」
私は一呼吸置いて、彼にそう告げた。
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