静かな夜に私は願う

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   風になりたい。私はずっと想っていた。皆を守るためだとか、争いの中で力を示すためだとか、そんなためじゃない。そんなに私は強くない。  私は自由が欲しかった。  国を統べる。そんな血筋に産まれたばかりに、私には常にそれが付き纏った。生きているだけで私は糸に繋がれている。まるで人形のよう。その糸は幾重にも私を縛り付け、絡まり、縺(もつ)れて、もう誰にも解くことはできない。  代わりに、私は強さを得た。  権力は勿論、学問も教わり知識を身につけた。武術もそこそこに。なにより〝在り方〟を私は得ることができた。  威風堂々と、揺らぐことなく。ただ皆のため、真っ直ぐと前を見よ。強く在ることが、皆にとっては安らぎなのだ。  父の言葉だ。  君主とは、人々を従えて己の強さを示す独りよがりな者ではない。君主とは、人々を守るためにただ尽くす、皆と同じ者。在り方の違いだ。   結局やることは同じだ。とその時私は心の中で吐き捨てた。  心底この立場が嫌いだった私も皆の前に立ち、父の後を継いだ。私は強さという〝在り方〟を手に入れた。 「嘘つき」  私は呟いた。
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