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そう、ただ〝在り方〟を知っているだけ。私自身に何の魅力もない。皆の目に映る私は堂々と頼もしく見えているのかもしれないけど、私はいつも小さく丸くなって震えている。
私は弱い。
風になりたい。私はいつからかそう願うようになっていた。ずっと想っていた。自由が欲しい、いや、それすら間違ってる。
私は逃げ出したいだけだった。
あの生活から、あの責任から、全ての糸をすり抜けて、どこかへ飛んでいってしまいたかった。風を掴まえることの出来るものなんていないから。何者にも風を縛り付けることなんて出来ないから。
それはただの幻想。現実の前に掻き消される幻想。
それでも、幻想を抱くだけで私は少し楽になった。妄想は現実逃避には丁度いい。一人になれる場所も見つけた。
密かな私の楽しみ。
私は目を閉じた。風は波打ち、それに合わせて草原が騒いだ。そして、ぽつりと誰かが呟く。
「ここ、好きなの?」
驚いて私は目を見開いた。そこには少年の逆さになった顔があった。私のすぐ傍に立って、倒れた私を覗き込んでいる。
「うん、好きだよ」
私は落ち着き払った声で返事をした。
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