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「ふーん」
そう少年は声を漏らして、かさかさと私を避けて歩いていく。私はその背中を追うように身体を起こした。
「お姉ちゃんがいつもここにくるからちょっと気になっただけ」
「いつもって、私がここに来てること前から知ってたの?」
「うん」
くるりと振り返る姿は無邪気で印象としては子供らしい子供だった。どうしてこんな時間に外にいるのかと一瞬頭を過ぎったけれど、そんなつまらないことは忘れよう。
「君は、誰?」
私は少年に尋ねた。
「全て」
「え?」
少年は笑った。
「吾は〝全て〟也」
どこかで聞いたような、そこまで考えて思い出す。
「聞かれてたのね」
「聞こえちゃったから」
えへへ、と可愛らしく笑う姿に思わず私も笑ってしまった。そういえば久しく笑っていない。常に在り方の通りに強く頼もしい存在でありつづけようと、気を許すこともなくなったから。
ここなら、そんなことを考えて振る舞わなくてもいい。私のままでいられる。
少年はまたかさかさと近寄ってきて私の横に倒れ込んだ。
「お姉ちゃんはどうしてここへ来るの?」
同じように倒れ込む。こうなると姿は見えない。草の向こう側で少年は私に問い掛けた。星空に向けて、私は静かに応える。
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