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少し慌てて私は声をかけた。
「ねえ」
「なに?」
返事はすぐ傍で聞こえた。
私は安堵した。入った力を抜いて再び草原に身体を落とす。
「君は私の事を知ってるの?」
「うん、帝王さんでしょ?」
「ああ、うん。そうでした」
なんだか地味に引きずる失態を犯してしまった気がしてならない。
改めて、会話を続ける。
「君はないの? 我慢しちゃうこと」
「ないよ」
あっさりと返ってきた。当たり前といえば当たり前の返答だけど、不思議と聞いてみたくなった。
「どうして?」
彼は答えた。
「僕は〝全て〟だから。そういうしがらみっていうのも全部僕。ガマンする理由はないんだよ」
これもまたあっさりとした、そしてはっきりとした答え。そこに違和感を私は覚えた。
遊び半分で私をからかっているにしては妙にはっきりしている。どういうことか年齢に似合わない物事の考え方だ。
「ガマンすることはないけど、やってみたいこともなかったんだ。願いがない」
そんな事を言う。幼い声が少年の声だと思い出させるけど、声変わりのしていないその声は落ち着いた女性のものとも取れないことはない。
まるで別人の様だった。
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