苦いおかず

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「誰か一人,立候補してくれるひとはいませんか?」 夏休みも明け、ようやく夏休みボケも治りかけてきたある日の放課後のクラスで,文化祭の実行委員を決めるためのホームルームが開かれた。クラス委員長である黒川さんが,前に出てクラスの皆に呼び掛けている。 実行委員はクラスで二人選ぶことになっているが,誰も立候補しないので一人は黒川さんがやることになった。しかし依然,立候補者は出てこない。 作業内容は主に放課後の実行委員会の集まりに出ることと,文化祭のためのクラスごとの詳細な取り決めを運営することだが,面倒くさいので皆やりたがらない。 決まらないまま時間は流れ,黒川さんが困ったように眉を下げ始めた頃,教室の後ろ側にいた担任の松岡先生が言った。 「決まらないんじゃあ仕方ないな。先生が勝手に決めるぞ」 今年38歳になるという松岡先生は,見た目も中身も非常に男らしい教師で,こういうときの決め方も男らしい。顔もいいし面倒見もいいので生徒の人気もあるが,こういう委員の選出の時は厄介だ。 「今日は9月14だから……」 先生は黒板に書いてある日付を見ながら考えている。自分にだけはならないでくれ,と祈っていた。 「御手洗,よろしく頼んだ」 願いもむなしく,呼ばれたのは自分の名前だった。落胆した。クラスの皆は一様に胸を撫で下ろしていた。 僕は力なく,はい,と返事をした。
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