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「本当……ですか…?」
ウルウルと上目使いの志乃ちゃんは、見ていてなんだか仔犬の様だった。
つまりは、それだけ破壊力が抜群だと言うコト。
「ほ、本当本当。いや、普段そんな誰かに褒められるコトとかないしさ……はは…」
苦笑いを浮かべながら、ふと脳裏に2人の姿が浮かんでくる。
1人は脱力系不思議少女。そしてもう1人は、ツンツン我が儘お嬢様。
思い返せば、この2人といる時は褒められたコトがほとんどない。むしろ欠点ばかりを突いてくる。
「じゃあこれからは、私が一紀さんの良いところをいっぱい見つけますねっ!」
それに比べてこの子はどうだ。
グッと両拳を握りしめ、気合い十分に意気込んでいる。
こんな良い子は他を探してもなかなかいませんぜ?
「あぁ、ありがとう。志乃ちゃんは優しいな」
嬉しくなって、思わず頭を撫でていた。クセのある髪が、手がそこを通りすぎた時にぴょこんと跳ね返る。
「はうっ……!」
そんな中、突然志乃ちゃんの体がカチーンと硬直する。そしてみるみるウチに、顔が真っ赤なトマトみたいに赤くなっていく。
視点はグルグルになって覚束ない。
「わわっ…!私!用事を思い出したので!ささ、先に帰ります!お、送っていただいてありがとうございました!!」
かと思えば、急に俺から離れて、ペコペコとお辞儀をしながらダッシュでこの場を去ってしまった。
「…………………」
1人取り残された俺。……なんか不味かったか……?
調子に乗って頭なんか撫でてしまったのが間違いだったのだろうか……。愛華なんかにやると、スゴい喜ばれたものだったが……。
掌を見つめ、まだ残る髪の感触を確かめながら不思議に思う初夏の出来事であった。
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