赤目一族のお屋敷で

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「え?遊びに行くのか?」 冷蔵庫から出した麦茶をコップに注ぎ、飲みかける寸前でコップを思わず止める。 季節は7月に突入。早いもので、所々で蝉も鳴き出すくらいの暑さになっていた。 「うんっ♪今日、由香莉お姉ちゃんと遊ぶって約束したんだぁ♪」 小さな小さな身長で、サイドに結った黒のポニーテールを揺らめかせ、ニッコリと笑いながらてんちゃんが俺に言う。 麦茶の入ったペットボトルが汗をかき、テーブルの上にゆっくりと滴った。 「そうか。気をつけてな」 「ねぇ~、いちにぃも一緒に行こーよぉ~!」 今度こそ麦茶を飲もうとしたのを、再び遮られる。 当のてんちゃんは、頬を膨らませながら俺の服を掴み、グイグイと引っ張ってくる。 「えぇ……?俺も?」 「うんっ♪」 何とも元気のいい返事。 てんちゃんコト、柏崎 天華(かしわざき てんか)は俺の家で一緒に住んでいる、今年で小学3年生になる元気いっぱいの女の子だ。 隣に住んでいる紅川家の奥様、紅川 美華(あかがわ みか)さんの妹の子供なのだが、色んな事情が重なって、俺の家で預かっている。 前までは普通に俺を呼ぶ時は『お兄ちゃん』だったのに、いつの間にやらその名称も変わっていた。恐らく、紅川家の妹の影響。 「そうだなぁ……」 さて、俺は少し迷っていた。 実際問題、孔寺蓮家に行ってもするコトが見つからない気がする。かと言って、てんちゃんを1人で行かせるのもなんだか心配だ。 「………香須美に相手してもらうか」 なんの気なしに思いついたコトを口に出し、ケータイのディスプレイを開く。 電話帳から香須美のケータイ番号を探し出し、発信ボタンをプッシュする。 しばらくの沈黙の後、単調なコール。それが何サイクルかした後に、めんどくさそうな声がケータイ越しに聞こえてきた。
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