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「?変なの」
そう呟いて、香須美は特に気にする様子もなく、また向き直って歩き出す。
その後ろ姿を見つめる香菜弥さんの表情を見ると、またさっきみたいに笑顔が消えていた。
「…香菜弥さん?」
思わず聞いてしまう。
少し目を細くして、まるでどこか寂しげな感じ。その表情を見て、何か裏があるんじゃないだろうかと思ってしまった。
香須美のあのフレーズを聞いた瞬間からだったから、昔が何か関係しているのではないだろうか。
「………なんだよ」
「っ!!」
背筋がゾワッと震え上がるのがわかった。香菜弥さんが俺を見据えた時に、鋭く、冷たい眼差しが俺を突き刺す。
それだけで体が動かなくなった。無言の圧力。その、今にも誰かを殺してしまいそうなくらい暗い瞳は、何も聞くなと言っている様だった。
「……いや、なんでも」
「…………早く追いかけろよ。香須美に怒られるぞ」
前に向かって指を差す香菜弥さん。その先には、いつの間にか遠くなってしまった香須美。
モタモタしてては、ホントに怒られかねない。
「あ、はい。……って、香菜弥さんは?」
駆け出した時に、香菜弥さんだけ動く様子がない。俺は振り返り、尋ねる。
「アタイはいいや。風呂上がりで眠くなってきたしな。ふわぁ~あ……。じゃあな」
眠そうに、大きなアクビをする香菜弥さん。それと同時に、またさっきの黒い瞳は消えていた。俺の返事を待つコトもなく、その姿は屋敷に消えていった。
……全く掴めない人。香須美に何を見て、何を思っているのか分からない。
他人の俺が関与するコトではないのは分かっていても、少しだけ香菜弥と言う人の過去が気になった瞬間だった。
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