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「てんちゃーん。そろそろ帰るぞー」
由香莉の部屋の扉をノックする。
香須美と一緒に時間を潰して、いい感じに太陽が傾き始めてきた。
5時と言っても、まだ空は明るい。が、小学生は晩御飯までには帰らなければいけないという、暗黙のルールがあるものだ。当然、俺も論外ではない。
「…………………」
返事の代わりに、中から騒ぎ声が聞こえてくる。
少し間を置いて、もう1回ノックする。しかし返ってくるのは、相変わらずの楽しそうな声だけだった。
どうやら俺のノックが聞こえてないか、無視されているに違いない。
「……おーい」
「何!?うっさい」
ちょっと強めにと扉を叩くと、今度は直ぐに開く。
出てきたのはてんちゃんではなく、機嫌の悪そうな由香莉だった。
扉を少しだけ開いて、ヒョコッと顔を出す。
「てんちゃん迎えに来たんだけど」
「………………」
うっすらと目を細めて、ジーッと俺を見つめる由香莉は、何か言いたげな表情。
「なんだよ」
「…………てんちゃん……」
「……は?」
ボソッと何かを言った由香莉。一瞬のコトで、何を言ったのか分からなかった。
少し恥ずかしそうに、視線を横に逸らす。
「……………」
「だからなんだよ」
中々言いそうにないので、少し面倒になってきた。一体なんだというんだ。そんなに言いにくいコトなんだろうか。
俺に急かされたのか、一瞬ギュッと目を瞑り、キッと視線を強くして俺を見る。
そして一言。
「て、てんちゃん、今日私の家に泊まってってもいいか!?」
「………………」
何を言い出すのかと思えば、そんなコトだった。
って、ちょっと待て。明日からまた学校だぜ?色々と大変だし迷惑だろ。それを由香莉に伝えると
「私が面倒みるから!学校にもちゃんと送ってくから!」
まるで、野良猫を拾ってきた子供の様な瞳で俺を見上げる由香莉。まるで香須美に見られている様で、一瞬ドキッとした
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