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「あっ、紹介するね♪稲葉 一紀さん。香須美さんの友達♪んで、まーく……兄の勝(まさる)です♪」
志乃ちゃんが間を取り持つ様に、お互いを紹介する。なるほど、この人は志乃ちゃんのお兄さんなのか。
………って、え?に、兄さん……?こんなデカイ人と志乃ちゃんが兄妹なのか!?世の中は何が起こるか分かったもんじゃないな……。
「ど、どうも………」
「…………………」
とりあえず軽く会釈をしてみる。
返事として返ってきたのは、志乃ちゃんと同じ真っ青な瞳で、ギロリと俺を見下ろす視線。
こ、こえぇ……。
前髪から微かに見える切れ長の細い瞳は、すっかり冷めきって凍りつく様だった。
「志乃、早く帰るぞ」
そして、フイと視線を逸らした勝お兄様。
車の後部扉を開き、志乃ちゃんに早く乗るように促す。
「まーくん!」
「む………」
しかし志乃ちゃんは兄にプンスカと小突く。そして、それにたじろぐ兄。
それに圧されたのか、しばらく考える様に沈黙した後、静かにこう呟くのだった。
「……兄の勝だ」
「よくできました♪」
兄の静かな自己紹介に、妹はニッコリと微笑む。
車に乗り込む間際、志乃ちゃんは俺の方に振り返っていつもの様に『また会いましょう』と一言告げて、車に乗り込むのだった。
「…………………」
志乃ちゃんが車に乗った後、兄と再び目が合う。
相変わらず冷めた冷たい瞳をしていた。そして一瞬、孔寺蓮家を見上げ、自分も車に乗り込む。
大排気量の車らしい、重みのある排気音を立てながら、車は去って行くのだった。
「………シスコンっぽいな」
そんな雨宮兄妹を乗せた車の後ろ姿を見ながら、呟いてみる。
いや、あれは絶対そうに違いない。
見た目はすんごい怖いけど、実はめっちゃ優しい的な。漫画だとよくあるパターンだ。『まーくん』だなんて呼ばれてたし……。
「…はっ。アホか」
実際シスコンなんてあるのかも疑わしいね。俺は1人っ子だが、妹や姉をもつ友達は皆が皆『ありえない』とか言ってるし。
そんな偏見を並べながら、俺は悠々と帰路につくのだった。
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