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「稲葉一紀だな」
「っ!!」
さっきまで誰もいなかった筈の、すぐ後ろから声をかけられて心臓が飛び跳ねる。
世の中にはビックリして声を上げる人と、逆に言葉を飲み込んでしまう人の2パターンがあると思う。
どうやら俺は後者の様だ。
息ができなくなりそうな位に驚いた俺は、振り向き様によろけながら後退する。
「……………………」
呼吸をなんとか調え、声を発したそれを見る。頭は冴えてる。どうやら霊的なあれではないようだ。
月明かりに逆光して、顔はよく見えない。いや、辛うじて分かるのは、真っ白な仮面を付けているコト。つり上がって笑っている様な目と口の形が、余計に怖さを増していた。
腰まで伸びたウェーブのかかった髪。月明かりのせいで、髪色はよく分からない。
夏だと言うのに、袖が広がっていく、手が隠れそうな程の長袖の真っ黒なコートを着ていた。
ていうか、これってホラーよりも怖えぇ!!
「だ、誰だお前……」
恐る恐る声をかけてみる。俺の名前を知っていた。声を聞いた限り、女性。俺が知ってる奴か……?いやしかし、無論俺の知り合いにこんな変な奴はいない。
「………………」
そいつは俺の質問に答えるコトはしなかった。
一歩ずつ歩み寄ってくる。
ヤバイ、逃げろ。俺の第六感がそう感じていた。
その感が当たったのか、俺が逃げようと一歩後退すると、そいつは一瞬手をコートの中に引っ込める。
そして再び手を出すと、そいつの手には白銀に煌めくナイフがあった。
瞬間、俺は駆け出していた。
通り魔じゃんこれって!!俺まだ死にたくねーよ!!
てんちゃんに届ける前に、まず生きなきゃダメじゃん!!
しかし次の瞬間そいつは華麗に宙を舞い、気づけば俺の進行方向に着地していた。着地と同時に息をつく隙もなく飛びかかってきて、ナイフを突きつけてくる。向かうは俺の顔。
「危ねぇぇぇぇぇ!!」
不可抗力。ナイフが体に届く前に、咄嗟に手元に持っていたてんちゃんの真っ赤なランドセルを盾にしていた。
ドスリと鈍い音を立てながら、ナイフはランドセルに深く突き刺さる。てんちゃんごめん!!
そのまま俺とそいつは、もつれながら倒れた。
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