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無意識にケータイに手を伸ばしていた。電話帳から香須美の名前を検索し、電話をかける。
数回コールするが、出る気配が全くない。あぁ、もう嫌な予感しかしない。香須美が無事ならいいが……。
軽く舌打ちをしてケータイをしまう。自力で行くしかないというコトか。
孔寺蓮家まではそう遠くない。
幸いにも相手とは距離が離れているから、このまま―――。
と思っていた俺が間違っていた。
安心しかけた瞬間に、投擲されたナイフがすぐ横を掠めていった。
ゾッとする。本気で俺のコトを殺しにきている。一体俺が何をしたってんだ。
それからは恐怖のあまり何も考えるコトができなかった。ただ無心に足を動かし、必死に逃げる。
その甲斐があって、いつの間にか孔寺蓮家に着いていた。目の前にそびえる、見馴れた門。ベルを連打し、門を叩く。
「誰か!!誰かいないか!!」
後から思ったコトだが、人間、恐怖心や焦燥感に駆られると羞恥心なんて全く無くなってしまうんだよな。今の俺はその状態に陥っていた。
そして、そんなコトをやっている間に相手も追いついてくる。
表情は読み取れないが、肩が軽く上下している。少なからず疲れを見せている様だ。
「……………………」
無言で歩み寄りながら、再びナイフを取り出す。俺にはもう、抗う体力は残っていない。
駆けてくる。今度の今度こそ死を覚悟した。
今までのコトが走馬灯になって甦ってくる。どうやら、死ぬ間際に見えるものは本当な様だ。
「ぐっ!!」
刹那、横から何かが介入してきた。
それが飛び込んで来た瞬間、仮面の相手は吹き飛び、地面を転げる。
「よぉ、外が騒がしいと思ったらお前か」
「っ…………!!」
声にならない感情が込み上げてきた。
夜にそよぐ風が、長い髪を靡かせる。月明かりに煌めくブロンドヘアー。
その後ろ姿は勇ましく、頼もしい。俺の前に背を向けて立ち、気だるそうに頭を掻きながら呟く女性が救世主に見えた。
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