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「よぉ、お前はアタイを知ってるみたいだけどよ、アタイはお前を知らないんだ。誰だお前?」
指をパキパキと鳴らしながら、仮面の相手に歩み寄る。対して相手側は、香菜弥さんの圧に押されているのか、ジリジリと後退し始める。
「……私は稲葉一紀に用がある。孔寺蓮香菜弥、お前に用はない」
「襲っておいてよく言うぜ。コイツに何の用だ?」
親指で俺のコトを差しながら問い詰める香菜弥さん。
香菜弥さんはやはり頼もしい。こんなに緊迫した状況でも、どこか安心感がある。
「邪魔者を消す。稲葉一紀はその対象だから」
「……お前、またなんかやったのか?」
「やってないですよ!!なんすか『また』って!?」
呆れ顔で振り返る香菜弥さんに、全力でツッコミを入れる。
いつの間に邪魔者になったのか知らないし、邪魔者になるようなコトをした覚えもないですよ、えぇ。真に遺憾である。
「だってよ。そろそろテメェが誰なのか教えてくれよ。じゃないと怒っちゃうぞ?今、娘達と遊んでんだ。あんまり長引くとアタイが怒られるんだよ!!」
「「……………………」」
相手に向かって怒鳴りつける香菜弥さん。沈黙が包む。
娘達のブーイングを受けながら、デレデレ顔で謝りながら部屋を出ていく香菜弥さんの姿が容易に思い浮かんだ。
そして、そんな状況の中でも俺を助けてくれた香菜弥さんに優しさを感じた。
「あ……そういえば香菜弥さん」
「あん?」
その光景を思い浮かべたコトで、今まで忘れていた記憶が甦る。相手は明らかに孔寺蓮家と何らかの関係がある。しかし香菜弥さんは何も知らない。
この情報は役に立つだろうか……。
「俺が襲われた時、香須美に手を出すなって……」
「………何?」
しっかりと覚えている。俺が襲われる理由でもあるからだ。
香菜弥さんの返事。
急に声のトーンが落ち、スッと瞳に鋭さが宿るのが分かった。
そして一瞬の瞬き、元いた場所に香菜弥さんの姿がなかった。気づけば相手の首根っこを掴み、壁に叩きつけていた。
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