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「香菜弥さん危な―――!」
「うるせぇ黙ってろ」
香菜弥さんに危険を伝えようとしたが、遮られる。
死角のはずなのに、さも見えているかの様に香菜弥さんは相手の暗器を持つ手首を掴んで、腕を逆方向に曲げる。
「なぁお前、今まで何人を手にかけてきた?」
ギリギリと骨が軋む相手に語りかける。
痛みからか手に持った武器が、地面に鉄の音を立てながら落ちる。
「殺されるのは怖いか?」
「……わ、私は主の為なら、死ぬのもいとわない……」
「とんだ忠誠心だな」
鼻で笑いながらやり取りが行われる。俺には全く縁のなさそうな、物凄い話を平然としている。
すると香菜弥さんは何を思ったのか、相手を投げ捨てる。
「主に伝えろ。娘に関係のある人間に手ぇ出したら、容赦しないってな」
地面に落ちた武器を相手に投げ返す。
それを受け取った相手の表情は読み取れないが、どこか屈辱を味わった様なオーラが出ていた。というか、もしあの立場が俺だったら、生かされた感がして嫌だ。
相手は俺達の様子を伺いながら、隙を見て夜の闇へと馴染む様に消えていった。
「…………………はぁ~…」
そして包む静寂。
今まで張りつめていた緊張が解けるのが分かった。思わず大きなため息が漏れる。
「…………………」
香菜弥さんを見る。相手の消えていった方を見て、何かを考え込むかの様に黙りこくっていた。とりあえず、色々と頭の中にハテナが浮かんでいる訳だが………。
「一紀」
「あ、はい……」
ふと、香菜弥さんが呟く。さっきまでの威圧的な声色はなかったが、やっぱり話しかけられるとちょっと怖い。
「今日はもう遅い。ウチに泊まっていけ」
意外な一言。頭をボリボリと掻きながら、面倒臭そうにため息をついて振り返る。
「え……でも――」
「うっせぇ。また襲われてもいいのか?」
嫌な場面が思い浮かぶ。
それだけは勘弁して欲しい。そう思うと、断る言葉も喉の奥底へ引っ込むのだった。
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