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「香菜弥さん、さっき俺を襲った仮面のコトですけど……」
「…………………」
再び香菜弥さんの、ビールを飲む口が止まる。遂に聞かれたかと言わんばかりに、大きなため息をつく。
「香須美に手を出すなって、どういうコトですか?」
香須美とは友人をやってきた。友達を想うというか、ほっとけないのだ。
俺が命の危険を感じた。それが香須美にも降りかかるかもしれないと思うと、いてもたってもいられない。もしかしたらそんな感情は、友人という範疇を超えてしまっているのかもしれないが。
「………………」
香須美は一連の事件の内容を聞いて意味が分かっているだろうが、口をつぐみ、気まずそうに視線を横に逸らしている。
「……………」
横目で一瞬、香須美の仕草をチラリと見た香菜弥さんは、再び視線を戻す。そして一言、こう告げる。
「それは、お前に話さなきゃいけないのか?」
「え……」
「これはウチの問題だ。他人が首を突っ込むコトじゃない」
ズシッと、重い何かがのし掛かった気がした。
事実だから言い返せないのがもどかしく、悔しい。そりゃ、そう言われちゃ終わりだけどさ……。
「でも―――」
「香須美の気持ちも考えろよ。言いたい様に見えるか?」
「…………………」
トドメをさされた。香須美の仕草を見れば、今どんな気持ちでやり取りを聞いているのかはすぐ分かる。
目を伏せ、眉を垂らし、柄にもなく俯く香須美。知りたい気持ちと、空気を読む両方が混ざり合うが、それを見て、すっかり言い返す言葉も消えてしまったのだ。
「そういうコトだ。悪いな。………さて、アタイは先に寝るかね。由香莉、ガキは泣き止んだか?」
ポンと俺の肩に手を置いて、すぐ横を過ぎて行く香菜弥さん。
背中越しに、由香莉に話しかける声が聞こえる。
「はい。泣き疲れて寝ちゃったみたいです」
「さすがアタイの娘!由香莉は天才だぁ!」
「ひゃっ!く、くすぐったいですよ母さま……!てんちゃん起きちゃいますよぉ……」
イチャイチャするやり取りが聞こえる。しばらくして2人が部屋を後にして、静まり返るリビング。俺と香須美だけが残った
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