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「………………」
「………………」
2人して立ち尽くす。香須美といて、こんな静けさは初めてかもしれない。
なんとか今の空気をぶち壊したいとは思っても、目を合わせられない。
それは、俺が野暮なコトを聞いてしまった故の罪悪感が大半を占めていたからだ。
「あのさ……俺が寝る部屋は……」
やっとこさ絞り出した言葉が、そんな台詞。
「……ついてきて」
俯きながら、相変わらず俺と目を合わせようとしない香須美が俺の前を横切っていく。
怒っているでもなく、呆れているでもなく、何とも言い難い雰囲気。その背中を見つめながら、後に続く。
2階に上がり、いくつかの扉を過ぎる。昼間に通ったから覚えていた。香須美は自分の部屋の前で立ち止まり、横の部屋を指差す。
「あんたの部屋は、そこ。私の隣の部屋」
「おう、分かった。……おやすみ」
何か声をかけようかと思ったが、マシな言葉が見つからない。少し気まずさを感じながら香須美の側を通りすぎ、部屋に向かう。
「あ………ま、待って」
扉に手をかけ、部屋に入ろうとした時。躊躇いがちな、香須美の上擦った声。今の俺は敏感に反応できる。弾かれた様に香須美に顔を向けた。
「………どうした?」
「その……。さっきは母がごめんなさい。ああいう性格だし、相手の気持ち考えないで言うところがあるから」
母の代わりに謝る娘の図。
第三者から見れば若干シュールな場面だが。今まで同じコトを何度やってきたのだろう。
「いいよ別に。ホントのコトだし、俺もでしゃばり過ぎた」
笑って返事する。後から考えれば、もっと自重するべきだったのかもしれない。孔寺蓮家の問題は、その家の問題。ちょっと香須美と仲良くなったからと言って、俺が首を突っ込んでいいとは限らない。
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