末路

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 季節は冬。  12月も過ぎ正月の時期、普通家ではお節料理とか食べている頃だろう。  新年を迎え今年を良い年にしようと賑わう神社。  朝も昼も夜もこの月は毎年騒々しいと九狼は耳に手を宛てながら苦悶の表情で愚痴る。  普通なら九狼もその騒々しい中にいるべきなのだが、当の九狼は正月だの御参りなどの行事は一切興味ないようだ。  いつもの様にベンチに座り、背もたれにもたれ、ぐでぇ~とだらける。  平和だ・・・  空を見上げながらふとそんな事を思う。  今まで幾度となく血で染まった世界が嘘のように色鮮やかに彩っている。  この国はこんなにも幸せが溢れている。  今まで気付かなかった事が今では恋しく思っていた。  人間でいられた頃は何も知らずに生きていられただろうに・・・。  こんなに哀しくなることもなかっただろうに・・・。  でも、何故か笑みが止まらない。  可笑しくて可笑しくて仕方がない。  そろそろ限界のようだ。  世界が朱く染まっていく。  九狼という青年の精神が崩れ落ちる。  自我を保てたのはたったの5分だった。  そうだ。  俺は壊れてるんだ。  九狼は賑わう人並みを見る。  その目は光のない赤い目。  けして止まない笑み。  その口は狼の様に鋭く。  メキメキと鳴る腕。  爪が長く鋭く、腕が深紅に染まる。  「そうだ。食事の時間だ」  九狼は立ち上がり目の前に広がる人並みへと歩み寄る・・・。  ・・・その人並みが肉塊へと変わるには時間は掛からなかった。  その圧倒的なスピードと殺傷能力。  その驚異的な力は人間がいくら束になろうとけして抗うことなど出来ない。  まして、一般人はほぼ無抵抗に殺されるだろう。  ただ餌として殺され、快楽により肉塊に変えられる。  まるで家畜の様に・・・。  それも、仕方のないことだ。  何せ九狼は人間であって人間じゃない。  人間の皮を被った化け物なのだから。  肉塊の中で彼は笑う。  彼はもう壊れている。  裏の世界で名を馳せた青年も今では一匹の怪物。  もう、誰も彼を止めることは出来ない。  「アハハハ・・・。アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!」  彼は笑い続ける。  狂ったように。  そして、次の獲物を探す。
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